いつかは、バレンティーノ・ロッシを負かしたい! そんな意気込みで研究が進められている人型自律ライディングロボットが、ヤマハ・モトボットです。東京モーターショー2015でご覧になった方も多いでしょう。
では、どうやってバイクを曲げているのでしょうか?
僕の興味はこの1点に集中しました。だって、これがわかれば、ライディングに活かせますからね。さっそく開発者に聞いてみましょう。
「ハンドルです。いわゆる 逆操舵 を与えています」
意識しているか、していないかは別にして、ライダーが必ず使っているのが、この 逆ハンドル(当て舵) だと開発者は話します。ちなみに、逆ハンドルとは、行きたい方向と「逆」向きにハンドルを切ることです。
例えば右に曲がりたかったら、曲がり初めに少しだけハンドルを左側に切ってやる! すると車体がサッと右に傾いて、右に曲がり始めるわけです。このキッカケを作ったら、 ハンドルから力を抜いて、セルフステア(車体の傾きに応じて自動的にハンドルが切れる作用)にバトンタッチすると、気持ちよくコーナーを駆け抜けられますね。
「曲がるということに関して言うと、体重移動の寄与率は10~20%。軽量なオフロードバイクなら体重移動の効果も大きくなりますが、車重が重い中大型車になると 逆操舵 を使わなくてはなりません」
では、何のために体重移動するのかというと
「車体を起こして、できるだけたくさんのパワーをかけるためです」
レースのハングオフを思い浮かべれば、よくわかりますね。ライダーがイン側の低いところに移動する分、車体を起こせるから、タイヤの接地面積が増える。タイヤのダンピングも活かせる。おかげで、安心して、よりスロットルを開けられるという流れです。
ハンドル操作で曲がるキッカケを作った後は、どうするのでしょうか?
「ケースバイケース。このあたりは、我々としても、まだ正解を持っていません」
ハンドル入力を抜いてセルフステア(車体が傾いた方向にハンドルが切れる現象)を活かしたほうがいいのか、さらにハンドル入力を加えてイン側に切り増していったほうがいいのか? どんなときに、どちらを使うのが効果的なのかは研究中だといいますから、今後の成果に期待しましょう。
ちなみに僕は理工系大学出身で自動車技術会・正会員でもあるので、バイクに関する論文をよく見ています。その中に、今回のテーマの参考になるものがありました。
「はじめての二輪車の運動特性」というペーパーに「人間が二輪車に与える入力は、ハンドルトルクが卓越しており……(中略)……ステップ反力等、他の影響はこれらの入力のキッカケとしては用いているものの、直接的な影響はほとんどない」と書かれています。
まぁ、ヤマハ・モトボットもこの論文も、ライダーを車体に固定した状態で解析したものですから(そうしないと変数が多くなりすぎて解析できない?) ライダーのボディアクションが加わると、また違った見解が得られるかもしれません。実際のライディング感覚としては、下半身を活かした様々な入力も効果的ですからね。
そうはいっても、物理的には 逆操舵 が大きな役割を占めていることは確か。今日からは、自分が「どのようにハンドルを操作しているのか」を意識して、バイクとの付き合いを深めていってはいかがでしょうか?
特に、「ハンドルに入力してはいけない」と教わり、そう思い込んで来た方は……自分がどれくらいの操作トルクを、どのタイミングで、どれほどの時間加えているのかに着目すると、目からウロコがパラパラはがれ落ちるかもしれませんよ。
※記事の内容は掲載当時(2015年12月)のものです。
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